WBSプロクラシッ23プレスアングラーレポート
蛯原英夫選手
寸でのところで、何度悔しい思いをしてきたのだろう。
過去の試合では驚異のお立ち台率を誇りつつも、なぜ手が届かないのかと自問自答をくりかえし悩んでいたのではないだろうか。
他人が文字や言葉にしてしまうと、なんて薄っぺらく、また意味をなさない表現であろうか。
当人の気持ちは当人にしか理解できないことは分かってはいても、冒頭の思いを抱かずにはいられなかった。そんな数シーズンを蛯原プロは耐え重ねてきた。
今年の初戦を終えた後の落胆たるや想像に難しくないが、その後の抜け感はすさまじかった。破竹の勢いとはまさに今シーズンの蛯原プロを形容するに相応しい。
渇望してやまなかったAOYを手中に収め、そのままの勢いでクラシックタイトルまでをもその剛腕でもぎ取ってしまうのではないか? との期待にわくわくしたのは私だけではなかったはずだ。
そんな思いを抱きつつ蛯原プロのボートに乗船させて頂いた。
霞ヶ浦の状態は台風18号による大増水から、続く「史上最強の19号」の襲来に備え水位を下げつつあったが、それでも通常の水位よりは高い。バスのポジションはどのように移り変わるのか、また、各選手は如何に釣りを展開させて行くのか、非常に興味深い。
そして蛯原プロである。直前のプラでは5本は取れたが、我慢の釣りだったとのこと。今日も厳しいことに変わりは無さそうだ。
プレーンを解き最初に入ったスポットは、西浦北岸のベジテーションエリアだった。釣れないプラの中でも好感触を得ていたという。水温は20.1℃と体感気温からすればまだ高い。
ダブルモーションのゼロダンとピッチンショットのネイルシンカーリグを使い分けカバーを打つが、反応は得られなかった。
外の石積みをDゾーンで流した後、このスポットに見切りを付け移動。
向かった先は、風の向きと強さを考慮し、対岸の西浦南岸。
予報ではこの後風は強まり、南岸は風表となりつぶれることを予測しての移動だった。
そこは私がオカッパリでよく釣りに行くエリアだった。
バスボートが入っているのを見たことが無かったので驚いていると、通常の水位では入れないのだが、今の水位ならばアプローチが可能だという。
持っているエリアの多さは、蛯原プロの強さを裏付ける要素の一つであると納得。
天気予報では北寄りの風が9時ごろから強まり風速3mと報じられていたが、すでに9時を前にして徐々に強まっていた。水面がガブガブになりつつあったなか、小移動を繰り返しつつも南岸から動く気配はなかった。
水温は19.9℃と下がり、冷たい風の影響を受け始めていた。
加えて減水してゆくなかでの釣りである。ジャカゴでは発売前のクランクベイト・シャローホグも投入。ゼロダンと交互に使い分けながらインサイドのリーズもチェックしていく。
8:00、待望のファーストフィッシュをキャッチ!
1300gクラスのナイスサイズだった。リグはゼロダン。
「俺らしいところで出たでしょ?今日の状況が俺をここへ呼んだ!」とがっちり握手。正直、私はこのエリアは無いのではないか? と思いはじめていた矢先の出来事だった。
リーズの周辺は強まる風の影響を受け徐々に濁りはじめており、釣りが成立しないようになりつつあった。また、減水傾向が念頭にあったのでなおさらである。しかし、無闇やたらに撃つのではなく、蛯原プロはリーズの風裏部分をしっかりと丁寧に狙っていたのであった。
さらに小規模であっても水の流入がある河川や水門というキースポットを絶対条件としてエリアを見定めていたところはさすがとしか言いようがない。
その後も、リーズで風の影響をまったく受けない極狭いスポット+浮きゴミという「いかにも」というシチュエーションをキッカーフロッグで撃つという攻めに、興奮と期待で胸躍らせたが、残念ながら音なしだった。
8:50に東岸へ移動となった。フロッグに出ることはなかったが、本当にいつ出てもおかしくないと心から思わせるアプローチと、防寒着が必要な天候でもフロッグをリグったタックルをボートデッキに用意していたことに痺れた。
2日目のビッグフィッシュを獲った結果も、やっぱり出たか! と納得だった。初日にしっかりとそのスポットをチェックし、キャッチこそなかったものの魚信を得ていたのだ。そのあたりはBasser誌No,276のレポートに詳しく掲載されているので参照していただきたい。
さて、本湖東岸である。結果からすればこのエリアから蛯原プロがこの試合でキャッチした魚のほとんどを排出することとなった。
メインルアーはDゾーン。石積みや杭にタイトに通して行った。
9:36に800g、12:26に700gをキャッチしたのも同ルアーで、エリアも同じであった。2匹目から3匹目までは時間が空き、魚からの反応もほとんどない厳しい状況が続いた。その間、天王崎や東浦への移動を織り交ぜるランガンを繰り返した。冒頭で記したように我慢の展開が現実となっていたのだ。
玉造の石積み消波堤のインサイドをメインに、Dゾーンをメインにシャローホグを織り交ぜながら投げていくなかで、「(Dゾーンのブレイドの)フラッシングが効いてる。クランクはだめだからね」と状況を分析したり、「釣りが雑になってんな~。ホントは岩と杭の両サイドの2コースにルアーを通したいんだけど、(風に)流されて1回しか引けてない。もっとしっかりやればもっと食わせられるよ」と自身を鼓舞しながらキャストを続けた。私からすればボートポジションやルアーを引くコース全てに隙が無いように感じるが、本人は納得してない様子だった。
思い返せば、2011年に潮来マリーナを会場に開催されたクラシックでも同船する好機に恵まれ、蛯原プロの試合運びを細部にわたり目にすることができた。
何が何でも優勝しなければならない、という気迫で釣りをしていた当時と比べると、今年の釣りは、根底の部分がずいぶん異なると感じた。何とも表現しがたいが「客観」「冷静」「沈着」といったイメージを連想させるといえば分っていただけるだろうか。蛯原プロを近くで見ている方であれば、恐らくは伝わるのではないかと思う。AOYを獲得したが故の「余裕」だけではない確実なほかの何かである。
蛯原プロは確実に進化している。
当時感じた「霞ヶ浦における釣りの完成形」を置き去りにして、更に前を進んでいる。
そういえば、2011年度のクラシックでは、自身手作りのゼロダンをメインに釣りを展開していたのだった。そのリグも進化を経て市販化され、汎用性の高い製品としてプロアングラーをはじめ一般アングラーにも広く愛されるリグになっている。
来シーズンも進化した蛯原プロは大いに暴れてくれることだろう。
今から楽しみで仕方がない。
■プレスアングラー 斉藤憲治
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