WBSプロクラシッ24
プレスアングラーレポート
蛯原英夫選手
「オールスターの無念を晴らしたいんだ」
その人はステアリングを握ってそう言った。
決意の目は、10月に行われたBasser all star classicで
無念の惨敗した蛯原英夫選手のドラマの続きを示していた。
蛯原英夫選手。その人の凄さはいろいろなメディアやW.B.S.の記録からも伺っていた。
ある程度のレベルまで達しているプロフェッショナル同士の戦いは、精神力の戦いになるのではないかと私は思っている。
このレベルの人たちは、釣れて当たり前のような気さえしていた。だけど絶対なんて言葉は容易に使えない。
「オールスターと同じことをするよ。あのときに出来なかった事を今回はやって、あの時本当に俺があそこで釣る筈だった魚を持って帰ってくる。俺はみんなに言ったからね、絶対優勝してやるって」
考えられるだろうか? 卓越した技術と精神力を持つ頂点にいるこの人はあの時の自分を、今日まさにこれから超えるつもりなのだ。
例年のW.B.S.クラシックより今年は一ヶ月ほど遅い季節になり、水温は14℃台。これから冬を迎える難しい季節になっている。
Day 1
6:13 フライトはラストの13フライトだが、霧が深くスピードは出せない。
6:44 目的地には15分もあればつくはずだが、視界が悪すぎて漁師の船や障害物にハラハラしながら30分で到着。
目的地である東浦にある木ジャカは北東の風が強く吹き付けるほどバスの魚影が濃くなるポイントで、オールスターの時はプラでその状態で5本で6キロは軽く超える魚が釣れていたという。ではなぜ本番で釣れなかったのか?
無風、南風だったのである。
使用していたゼロダンとテキサスリグのダブルモーションには1本しか反応せず、もっとウェイトを落とした、いわゆる弱い釣りにシフトできなかったのだ。
今回も風はさほど吹いておらず、日中は暖かくなる予報。
「今日ベタ(凪)なら3本。明日(風が)吹けば5本かな」
到着したエリアには平川選手が先に到着しておりシェアしての釣りになったが、魚を釣り分けたとしても勝てるはずだと考えているようだった。
それだけこのポイントを知り尽くすほどの練習を重ねた自信があるのだ。
6:55 ファーストフィッシュはピッチンスティック(1/20ozネイルリグ)のフリップ&ピッチングに1600gほどもある太った魚体がHIT!
「ほらな!やっぱりそうなんだ!なんであの時出来なかったんだろう!!」
自分の考えが合っていた嬉しさとともに、オールスターのときの苦しさと悔しさがよみがえる。
「合ってる。合ってるんだ」
噛み締めるようにつぶやきながら永遠とフリップ&ピッチングの単調作業を繰り返していく。
今回のプラでもやはりゆうに6キロを超える魚の手応えをつかんでおり、釣れたバスの大きさと魚体の特徴から間違いがないことをこの1本目が証明していた。
平川選手も釣れている様子が見え、はじめは少し蛯原選手も気にする様子があったが、霧がなかなか晴れずお互いが見えないことや順調にバスを追加して行ったことで気にならなくなった様子だった。
しかし順調に、とはいえそれほど簡単ではなかった。
水温と風から言ってもアタリ自体が少なく、キャットも共存する。結局はやっぱり我慢の釣りだ。
8:07 1200gのバスを障害物の内側から引きずり出す。
8:35 アタリがあり、ワームがずれている。
「俺がミスったんじゃない。これはバスがミスったんだ」
今日はこれをやり通すと決め、このでかいバスボートの広いストレージにはエバーグリーンのロゴの入った緑のケース3つしか積まれていない。
9:30 霧が徐々に晴れ始め、水温が15℃を上回った。
9:55 800gほどのナイスキーパーをGET。今までの魚が大きすぎて、小さく見えてしまう。目が贅沢になっているようだ。
「今日3本釣れたら合格だよな」なんて言っていたのに「あと2本釣れたら5キロだな!」
キャストはもちろんピカイチで、気になるストラクチャーには何度も角度を変えて打ち直す。
11:58 アタリの無い時間が続いてリグを変えて打ち直す。ポイントを動きたくなるが、キャットをかけて抜いた後にゼロダンのシンカーにバスの歯形らしいものがあるのを発見してまだ我慢の釣りを続ける。
12:15 ピッチンスティックに待望の4本目が来て、500gほどではあるが4キロは超えている計算になる。
「あと1本欲しいな。ラインを張っていると喰わない」
「5本釣れたらご褒美にしようと思ってたんだけどご褒美あげちゃお。自分に!」
ストレージからコンビニスイーツを取り出して私にもくれた。
「今日誰が乗るかわかんなかったけど、釣れたらあげようと思って買ってきた♪」
甘いものが好きなのか・・・
プレスのことまで気を使ってくれるなんて・・・とか
「良い人だよ」なんて聞いていたけれど、大勝負がかかってピリピリしていてもおかしくないのに、「ほんとに良い人です~この人~!」と、心の中で私は叫んでいた。
もしかしてシェアしてなかったらもっと早く5本ここで釣れたのではないか?
と思ったが、蛯原選手は「俺の魚は俺が釣る」と断言して笑顔を見せた。
「この時期に5本釣れたら行く(優勝する)だろう!? よし、場所変えよう」
まだ時間はある。2番手、3番手のポイントを回る。
13:39 なんとテトラでラストの一本をダブルモーション2.8インチの3.5gテキサスリグで600g強のバスを追加することが出来、4800gをたたき出した!
初日は大藪選手が6300gのビッグウエイトを持ち込み2位で折り返すことになった。
1位とは1500g差。あのポイントで釣れるバス1本分だ。明日は今日より風が吹く予想らしい。
おそらく大藪選手のポイントは風に弱いだろうから、もしもプラ通りの展開で蛯原選手が持ってくれば逆転する可能性は大いにあると思ったのは私だけではないはずだ。
Day 2
いよいよ連続ドラマの最終回。ラストシーンは果たしてハッピーエンドなのか!?
それを私だけが目の前で誰よりも早く目撃し、一緒に体感できる事を光栄に感じていた。
6:16 今日はファーストフライト。まるですべてが押してくれていると感じているのはきっと私だけじゃないだろう。
昨日のウエイトが出た後、平川選手は同ポイントで2本しか釣れなかったと蛯原選手に言って「明日は存分に釣ってください」と申し出てくれたと言う。
「マイウォーター」と言って、暗黙の了解でポイントをその人のエリアであると宣言するような事がトーナメントではあったりする。
だがそれは簡単なことではない。
試合の展開を考えてのマナーであったりもするが、釣り人が釣れているとわかっているのにそこに入れないなんておかしいと思う人もいるだろう。
現に前日蛯原選手は「シェアしよう」と声をかけているのだから、2日目にリベンジで平川選手が入っても不思議ではない。
その行動は尊敬に値し、W.B.S.が高大な選手の集団だと言うことの証明なのだ。
2日目の釣りはわかってはいたことだが、たやすくはなかった。
練習で必ず釣れたところも、昨日釣れたところも、キャットのアタリすらないのだ。
昨日ぐっと気温が上がって暖かい日和の後の冷え込みに、バスも簡単に口を使わないばかりか、散々自分でポイントをたたいた翌日なのだから当然である。
水温も昨日のようには上がらない。風はもくろみ通り北東の風が吹き始めているが、かなり冷たい風でプラス要素にはならない予感がしていた。
2時間の沈黙が経過して「もしかして今日デコるなんてこと・・・」と思い始めた頃
8:35 ピッチンスティックに1400gはあるバスが水面を割った!!
2日目の幕開けは痺れが切れて心が折れそうになってからのスタートだった。
8:44 同じポイントで550gの「大事なキーパー」
8:51 さらにもう一匹バイトするがミス!
「これは俺のミスだ!」
「いなくなった訳ではなく、いるなら全然いいんだ」
急に冷え込んでアタリが無い時、いなくなったのかorいるのに喰わないのか解らず不安になる事は多い。蛯原選手でもそこを迷ったのか、と私は勝手に安心した。
「夕べちょっと思いついたんだよ」
と、今期初めて投げると言ってスモラバを取り出した。
それはなんだか蛯原選手には似つかわしくなく、あまり聞いたこともないなと私は思った。
どちらかというとテキサス、ゼロダン、パンチングにフロッグといったような強い釣りをはめてくるタイプ、私は彼をそう認識していた。
いや、その認識は外していないのかも。彼は「今期初」と言っていたし。
というか今期初をこの2日目に、ぶっつけ本番で!?
なぜそれを思いついたのか?
つまり「ピッチンスティックよりも弱い釣り」を思いついたと言うことらしい。「スモラバは“俺の辞書に無ぇやつ”なんだよな」
9:36 なんとそいつは火を噴いた!
1600gはある腹パンのバスがスモラバを丸呑み!
C-4ジグ2.7gにトレーラーはC-4シュリンプ。
「実はここまで打ったらや~めた! やっぱもう2度とスモラバなんてやらねぇって言うつもりだったんだよ!」
ここでほっと一息デザートタイム。コンビニスイーツで息継ぎだ。
スモラバと言ってもラインは12lbのカバー対応で、そこからの蛯原劇場といったら本当に凄かった。
10:03 ロープに巻かれて「やべえ!」と言いながらも750gをキャッチ。
これはラインが太い事もそうだが、スモラバを何しろほとんど初めて使うために考え抜いてチョイスしたと言うスパークショットがバッチリなんだと言う。
4本で4キロ超える計算。
「次1500釣ったら余裕で5キロだろ?入れ替えて6キロだ!」
特大お願いします!
「まかしとけ!!」カ、カッケー。
この男が勢いに乗ったら止まらない!
11:22 水温が徐々に上がり始めた頃、またしてもスモラバにキロアップ!
なんとリミットメイクだ!
凄すぎる。カッコイイ以外に言いようがないじゃないか!
(ボキャブラリー少なくてすいません)
「スモラバってスゲーな」
いや、凄いのはアナタですよ。
しかしラストシーンはここで終わらなかった。
12:25 またまたキロアップで入れ替えだ!
550を追い出して、推定で6キロの大台に乗ったはずだ!
エンジンが途中で止まって帰れないなんて事がないように、早めに帰ろうと決めゆっくり快適走行で15分前に余裕の帰着。
あとは皆さんもご存知のはずだ。
初日4800、二日目6090のトータルウェイト10キロオーバーでぶっちぎりの優勝!
「有言実行!」ガッツポーズの背中がまぶしい。
見事オールスターでの無念を晴らし、新しい武器を手に入れた蛯原英夫選手の活躍をまた来年もこの目で見てみたい。
レポート:佐々木チカエ