W.B.S.カスミプロクラシック32同船レポート(馬路久史選手)
Day1 空回りの初クラシック
初日の朝、スタート順を決めるくじ引きで馬路久史選手が引き当てたのは13番。つまり、クラシック参加選手のなかで最後にスロットルを開くこととなったわけだ。
馬路選手が本命視していたのは恋瀬川だった。前日のプラクティスではざっくりとしたチェックながら2尾(600gと800g。ルアーはベイビーTEEボーンスピナーベイト1/4ozシングルコロラドモデル)の魚を手にしており、朝からそこへ入るつもりだった。しかし、遅いスタートですでに他の選手が先行しているだろうとの想定からスタートのコールとともにエレキを降ろし、北利根川に出てすぐ上流側右岸のストレッチ、国道51号線を挟んでわずかに残されたアシ帯へとエントリー。10日前に行なったプリプラクティスではプロトのバズベイトで1㎏フィッシュを手にしていたため、たしかにそこも触っておきたい場所ではあった。
キャストを開始してまもなく、ガンネルにバズをぶつけて再起不能のバックラッシュ。持ち替えたベイビーTEEボーンスピナーベイトも捨て網に根掛かりしたり、ミスキャストでアシにからんでしまったり、どうにもリズムが悪い。JBにも長く在籍したベテランだがW.B.S.のクラシック出場は今回が初であり、気持ちが昂りすぎて空回りしているように見受けられた。
30分ほどで船外機を始動し、霞ヶ浦大橋西詰のリップラップを経て本命に到着したのが7時45分。河口の左岸に注ぐ山王川へエレキを進めると、前日とは打って変わって濁りが入り、強い流れが生じている。昨夜から降り続いている雨の影響であることは間違いない。ただ同時に水温が下がっていないことにも気付いた(17.6℃)。
「これなら、むしろ食わせやすいかもしれませんね」。
たしかにそうかもしれない。しかも予想に反して、恋瀬川に他の選手は見当たらない。ところがそんなポジティブな要素も、二度の座礁にリズムを崩されネガティブな思考に転換されてしまう。
「北利根に寄らないですぐにこっちへ来ればよかったな…」。
「人がいないということは釣れていないからなのか…」。
待望の1尾めは8時39分、流れのなかでもしっかりとトレースできるよう5gのグレネードシンカーを装着したベイビーTEEボーンスピナーベイト3/8oz(シングルコロラドモデル)に食ってきたのだった。
「ふぅ、やっと落ち着きました」。
ジャストキーパーサイズではあったが、いまの霞ヶ浦水系では貴重な1尾。これ以上の精神安定剤はない。結果的にはそれが最初で最後の魚となるのだが…。
時間とともに濁りと流れが強さを増していく川は他魚種の活性を高め、一等地に陣取るのはシーバスとキャットフィッシュという状況を作り出してしまった。
11時24分に恋瀬川を諦め、柏崎のコンクリート波除、備前川河口のブッシュ、桜川河口の石積み、大山の石積みと移動を繰り返すも、2度めのバイトを得ることはできずに帰着した。
公式ウエイトは440g。参加13人中10位で最終日を迎えることとなった。
Day2 確信のビッグフィッシュ
ルアーメーカー『ケイテック』の代表を務める多忙な身。そのため、馬路選手が練習に割ける時間は直前の1日のみ(しかもたいていが当日朝、寝ずの現地入り)という試合がほとんどである。
だが、このクラシックは違う。早くからスケジュールを調整して前週の平日3日間とオフリミット直前の日曜日にプリプラクティスを行ない、具体的なプランを固めて公式プラクティスに臨んでいた。それほど、この試合にかける馬路選手の意気込みは高かったのである(その気勢が初日は裏目に出てしまったのかもしれない)。
練習で得られた感触は、撃つ釣りより巻く釣り(横の動き)に分があるということ。プロトのバズベイトとベイビーTEEボーンスピナーベイトを軸に据え、撃ち物は巻いていて気になるスポットだけをチェックすればいい。
その考え方をさらに強めたのは、霞ヶ浦の鬼と呼ばれるケイテックプロスタッフ・赤羽修弥さんの協力によるところが大きかった。前日の公式プラクティスでは赤羽さんが同船を買って出て、フロントデッキで巻く馬路選手を撃つ釣りできっちりとフォローしてくれたのである(もちろん、その逆もあった)。
記者はオフィシャルに許可をもらいその場にも居合わせたが、あうんの呼吸で進行していく練習を目の当たりにして両者の間にはスポンサーと契約プロという立場を超越した強固な信頼関係が構築されていると感じたものだ。
まさに“チーム・ケイテック”と言えよう。
結果として馬路選手が選んだメインエリアこそ恋瀬川だったのである。水面は機能しないという判断からメインルアーもスピナーベイトに絞った。
魚は確実にいる。前日の雨は量こそ多かったが水温を低下させる冷たい雨ではなかった。ならば、流れが弱まり濁りが薄れていく過程のどこかで必ずプライムタイムが訪れるに違いない。そして最初に動き出す個体はデカいはず。その考え方に迷いはなかった。
2日めは初日の逆でスタート順は1番になる。横利根川の水門をくぐり沖へ出ると、フットスロットルを全開にしてわき目も振らず東浦最北の本命エリアへと走った。
この日の馬路選手は、初日とはまるで別人のようだった。
いや、いつもの姿に戻ったと言うほうが正しい。サイドハンドとバックハンドを織り交ぜながら的確にアシ際ぎりぎりへとベイビーTEEボーンスピナーベイト3/8ozを送り届けて、右岸のストレッチを淀みなく、細かく、線で刻んでいく。
恋瀬川到着時に17.4℃だった魚探の水温表示が17.8℃に変化していた9時9分、そのときは来た。
胸元に強く引き寄せたKTC664NFが直後、ベリーから弧を描く。
「デカいです」。
再三にわたる激しい突っ込みと二度のエラ洗いを慎重にいなし、流れるようにハンドランディングを決めたのはこれぞ霞のバスと言わんばかりの豊満な魚体だった。
「よぉっしゃああああ。うれしいぃぃぃ」。
求めていた魚を手に破顔一笑の馬路選手。値千金とはこのことだ。
しかしその後、愛郷橋から常磐線鉄橋上流の水門手前まで約1キロのストレッチを終始変わらぬキャスト精度で1往復半ていねいに巻き続けたが、2尾目のキーパーがロッドを曲げることはなかった。
「会社のスタッフや修弥さんにまで練習を付き合ってもらったのに…あと1尾、キロフィッシュが欲しかった。追加できず、すみません…」。
蓋を開けてみれば前日雨天からの晴天に苦戦を余儀なくされた選手は多く、6名がノーフィッシュを申告。そのなかにあって馬路選手が持ち帰った魚は1730gで今大会の最大魚となり、さらに2日目のトップウェイトをマークしたのだった。
トータル2170gで総合4位。入賞(トップ3)を逃したとはいえ、しっかりと存在感を放って馬路選手の初クラシックは幕を閉じた。