WBSクラシック 小野光一選手 プレスレポート


【ビッグフィッシュエリアという名のジグソーパズル】

小野光一選手といえばWBS最年長選手。

そして今期の第二戦・北浦戦での7キロオーバーによる劇的な優勝が印象に強く残っている。

クラシック前に全出場選手の今期の成績とウイニングベイトを予習してきた私にとって、小野選手に同船が決まった時には「やっぱり北浦で勝負するのか」と心の中で思った。

しかし、スタートを待つ迄の時間。その予想は簡単に覆った。

「今日は、本湖(霞ヶ浦)で勝負するよ」

と予想外な回答が返ってきたが、小野選手曰く。過去にビッグフィッシュが出たエリアを回るとのこと。

今回はプラクティスなし。

「キーパーを取りに行くのも良いけど、せっかくのクラシックだからデカイので揃えないと意味がないヨ」

先述の通り、小野選手はWBSにおいて最年長の61歳。

加藤誠司さんや泉和摩さん、林圭一さんなど日本のバスフィッシング界を、黎明期から一時期のバスブーム、そして終焉まで牽引してきたビッグネームとともにバスフィッシングの歩みを進めてきたバスプロの一人である。

それが故にホームグラウンドの北浦ではなく、あえて霞ヶ浦本湖でのゲームプランとなるとかなり見応えのある展開になるのは間違いない。

霞ヶ浦という広大なジグソーパズルがあるとするならば、それにどう小野選手の過去の栄光(ビッグフィッシュ)というピースを当てはめて行くのか。

その、パズルを埋める道しるべは、スキーターのドライバーズシートに取り付けられたホンデックスのGPS魚探の中に蓄積された貴重なデータと、そして何より長年のトーナメントキャリアを誇る小野選手自身である。

2番フライトの小野選手のスキーター&ヤマハ艇は南に向けて舵を切った。

ロングランの末にたどり着いたのは、霞ヶ浦本湖の最下流。

北利根川とのマウスに当たる部分のアシの生えたストレッチ。

ここは小野選手にとっての定番ポイント。

朝イチに必ず入るというエリアだ。

その理由は本湖から落ちてきた魚が、必ず一度は止まる場所であるから。

しかし、水深が極端に浅いのでボートの引き波等で場荒れしてしまう前の朝イチしか有効でない。

後続フライトで北利根川を下る他の選手たちが後ろを通過する中、小野選手の試合がスタートした。

ルアーは3/8 oz. ノリーズ製のシャローロール。カラーはホワイト。

小野選手にとって「スピナーベイトはこれしか投げない」という今までの実績から突き詰めてたどり着いた、こだわりのスピナーベイトこれである。それほどまでにコンフィデンスのあるルアーの一つ。

その答えは早かった。

リアデッキで私がロングランに備えて着込んだ防寒着を脱いでいた頃、小野選手のグラスロッドは大きく弧を描いていた。

急いでカメラを手に取った頃には、既にランディングの体制に。

ボートデッキに上がったのは、1,085gのビッグワンだった。

幸先の良過ぎる展開に私も小野選手も驚いた。「ここで釣れるとその後が調子いいんだヨ」

スタートから約30分。カスミ・ビッグフィッシュへのパズルの一つのピースがハマった。

朝一にナイスバスを手にした小野選手は更にスピナーベイトでショアラインを流して行くも、北西からの風が強く当たり始めたのが原因か、シャローエリアからのバスの反応は無くなっていった。

本湖東岸の石積みの裏にできたポケット内のカバーやブッシュを撃って行くも反応はない。

朝一に入ったポイントほどベイトフィッシュの存在もなかった。

ここまで、過去の栄光エリア巡りとは言えども、霞ヶ浦水系の状況は刻々とタフ化して行くのが、1日の時間の流れで明確になっていった。

時刻は9:30過ぎ、朝一の魚から全く反応がないまま3時間が経過した頃、小野選手はパズルをはめ込む為のヒントを掴んでいた。

それは、「水質とベイトの有無」である。「思い当たる場所がある。」と小野選手がエレキを上げて、向かった先は東浦に流れ込む流入河川だった。

霞ヶ浦大橋を越えて、まず入ったのは梶無川。

水質はまずまずの回復傾向。

だが、いかにも! というスポットに8.5gのスピードクローのテキサスリグをバンク際ギリギリに撃って行くが、全く反応がない。

ここには、ベイトというもう一つのパズルのピースが足りなかった。

【ハイリスク&ハイリターンという選択】

流入河川を釣り上がる事は、ハイリスク&ハイリターンといっても過言ではない。

その要因の一つは、バスボートのアイドリング走行が航行ルールである為、ポイントにたどり着くまでに時間を要すること。

そして、規模が狭いで他選手やオカッパリアングラーとバッティングしてしまうとマイウォーターをシェア出来ない。というマイナス要素があった。

現に、この日の序盤に入った北利根川の流入河川では、大藪選手とバッティングを経験していたのだ。

しかし、そのリスクを背負ってでもベイトフィッシュを追って流入河川に差してくる魚が多いのと、水の回復が早い流入河川をこの日の霞ヶ浦の状況下でビッグフィッシュパターンとして選択するのは、正しかったのかもしれない。

小野選手のスキーターが吸い込まれるように辿り着いたのは、東浦に流れ込む園部川だった。

小野選手の長年の経験から、結構良い思い出のある期待できるエリアとのこと。

河口付近は一見、両岸が護岸に覆われて地形的にプアに見えるのが園部川。

しかし、数キロ上った先にある一定のストレッチは水深も深くコンクリートバンクから、ナチュラルバンクへと変化し、濃密なアシがバンク側で格好のカバーを形成している。

小野選手は過去にこのバンクで幾度となく、ビッグフィッシュを獲得してきたというおいしいエリアである。

幸い、園部川の上流には他選手の姿はなく、水質もささ濁りでカレントも程よく効いていた。

正午前の園部川は秋晴れで、バンク側のカバーもシェードを形成している。

ここではベイトの姿を確認する事ができた。偶然ではない必然であるが、小野選手は導かれていたかの様にこの日、探し求めていた条件が揃っていたのだ。

舞台は整った。

【色褪せることのないレトロゲーム】

旧鹿島鉄道の鉄橋を超えた先が、小野選手の本命エリアだった。

古びた旧鹿島線の鉄橋が何かこの先に起こるビッグフィッシュへの期待へと膨らんだのは気のせいではないかもしれない。

小野選手といえば、スピナーベイトやクランキングなどの巻きの釣りを得意としている印象があったのだが、ここでは8.5gシンカーのスピードクローをアシ側にピッチングで撃って行くというシンプルかつ、繊細な釣りだったことが意外だ。

ピッチングで放たれたルアーはほとんど着水音なく、アシの奥へと滑り込まれて行く。

あえて8.5gという重めのシンカーを使用しているのは、状況的に簡単に食わせられる状況ではないので重めのシンカーでリアクションバイトを狙っているからだという。

そして、小野選手が今までの経験で絶大な信頼を寄せてきたスピードクローはフォールでのアームの動きがリアクションバイトを誘発するのだろう。

ちなみに、使用しているパープルのスピードクローは生産が終了しており、今や日本でもアメリカでも手に入らなくなっている。

各メーカーでクロー系のワームが乱立している昨今のバスフィッシング市場。

古くから愛されてきた往年の名作のルアーを使用しているあたり、小野選手らしい。

アクションも、着底からツーアクションほどで回収するなど、やはりフォールで食わせる事に重視していたので、丁寧ではあるがとてもテンポの速いアシ撃ちを展開していた様に思える。

岸際をタイトに攻め続けると答えは出た。ある小さなポケットに吸い込まれたスピードクローにグッと重くなるバイト。

絶妙なタイミングでアワセが決まった小野選手のロッドが大きな弧を描いた。

「デカい!」

緊張の一瞬だったが、カバーから出てきた隙を見計らって、抜きあげた。

ファーストフィッシュから5時間。我慢の釣りに耐えて導き出した答えは、1795gのビッグバスだった。

ビッグフィッシュを導き出すためのパズルのピースが全て上手くハマった瞬間だった。

予想外のビッグフィッシュに、小野選手も驚いた様子でボート上は歓喜に湧いた。

帰着までの残りの時間は、水の回復具合を見込んで、同じ東浦に流れ込む恋瀬川で勝負をかけたもののクリアアップし過ぎが原因か、キャットフィッシュのバイトのみで終わってしまった。

結局、初日は2バイト2フィッシュ。蓋を開けてみれば相当タフな1日だった。

トップの蛯原選手とは2,715gの差で2位につけた。

2日目の状況次第では、優勝を狙えるポジションに着けて初日を折り返した。

【タフコンディションの中に見出した可能性(二日目)】

「今日はデコってもおかしくない」ベテラン小野選手の朝一の一言が今回のクラシックの厳しさを表していた。

ビッグフィッシュエリアを回り、コンフィデンスのある釣りを押し通した前日。

それでも取れたバイトは2バイト。相当なタフコンディンションである。

トップの蛯原選手が仮に2日目に失速した場合、昨日と同じ様な釣りをしてくれば優勝の可能性はあるが、それでも優勝争いに絡むには5キロ以上のウエイトが必要だっただろう。

初日とは違い、少し暖かさを感じた土浦新港。

しかしこの日は前日と違い、午後からローライトの予定。

スキーターのデッキ上に並べられたタックルには前日に加えて、タフコンディションに備えてシャッドが加えられていた。

土浦新港から走ること30分。最初に入ったエリアは初日と同じ北利根川のマウスに当たるストレッチ。

初日と同様スピナーベイトでシャローを撃っていく。
しかし、バスからの反応はない。

初日と大幅に違っていたのは、周りに見られたシラウオの存在だった。

この日はその他のベイトも確認できなかった。

北利根川のマウス周辺のチェックを終えると、小野選手は賭けに出た。

「北浦行くよ。」

初日に封じていたホーム北浦というカードをここで引いた。

小野選手が早い段階で北浦への移動を踏み切ったのには理由がある。

同日に北浦の潮来マリーナで行われていた別トーナメントには、80艇を超えるボートがエントリーしていて、その選手が各エリアに散る前に入っておきたかったのだ。

40分ほどのロングランの末、北浦に到着。幸いトーナメントはスタート前で入りたいポイントに入ることができた。

前日に北浦で行われていたトーナメントの優勝ウエイトは、3匹で3,005g。

こちらも状況はタフだった。

しかし、小野選手は今季第2戦の北浦選で優勝しており、ホームという大きなアドバンテージがあった。

北浦で揃えられる自信があったのだ。

普段北浦で釣りをしない私にとって、ホームで優勝経験もある北浦での釣りに期待していた。

【一変したホームグラウンド北浦】

さすがホームグラウンドの北浦ともあって、小野選手のエリアとルアー選択はかなり絞り込まれていた。

有望なドックを転々と周り、壁際をレッグワームのダウンショットリグで丁寧なアプローチで探っていき、ピンスポットの地形変化や水中ストラクチャーではビッグフィッシュを意識してシャッドを巻くなど、知っている人にしかできない。

自分の中ではそう思えるゲームを展開していった。

だがしかし、小野選手の釣りは上手く噛み合わなかった。

ドックの外壁の際でダウンショットでバイトを取ったものの、それ以降は全く反応がなかった。

その後も有力エリアを周ったが、バイトは得られなかった。

連日のトーナメントによるフィッシングプレッシャーによってタフ化してしまった北浦はいるべき所に魚がいない。というような状況だった。

そして状況をタフ化させてたもう一つの要因としては、北浦に吹き付けていた冷たい風である。

人間の肌でも寒いと感じるくらいの嫌な風が北浦には吹き付けていたのだ。

霞ヶ浦方面では感じることのなかったこの風が、状況を厳しくしてしまっていた。

結局、小野選手は北浦では魚を手にする事は出来ずに霞ヶ浦へと戻る事を決断した。

「欲をかいて北浦に来たのが、裏目に出た」と北浦を後にする時に小野選手が口にしていた。

改めて私はトーナメントの難しさを実感したのだ。

残された時間は4時間ちょっと。小野選手は霞ヶ浦へと引き返した。

【逆転を信じて】

コンフィデンスのある北浦でハズした事は、長年のトーナメントキャリアを誇る小野選手でさえも、多少なりとも焦りに繋がったのかもしれない。

霞ヶ浦本湖に戻ってからは、この時期の北浦で有効なパターンとしてドック周りやテトラ周りを中心にシャッドやダウンショットでの釣りをランガンしながら続けていった。

それでもバイトは得られなかった。

残り時間が限られる中、小野選手は再度大きな決断を下した。

「園部川まで上がろう!」

そう。前日にビッグフィッシュを獲った園部川のあのストレッチで最後の勝負をかける事にした。

午後11時過ぎに、園部川の例をストレッチを再び8.5gのスピードクローのテキサスリグで撃ち始めた頃。一貫してローライトコンディションだった二日目だったが、奇跡的に晴天に変わった。

これによって魚がカバーに入りやすい状況へと変化した。

数分後。カバーの奥の奥へと入ったスピードクローに重みが加わった。

すかさず合わせを決めた小野選手。

ワンジャンプした後、残念ながら魚はカバーに化けてしまった。

推定キロアップはあるバスだった。

小野選手は落胆の様子で、ルアーを回収に向かった。

そして再びカバーを撃ち始めた。

すると再びチャンスが。ルアーがカバーから抜けた直後にバイトがあった。

アワセを決めるも、再びフッキングはせず。小野選手曰くバスがテキサスのシンカーまでくわえてしまったため、フッキングまでは至らなかったとのこと。

この魚も目測でキロフィッシュはあったかもしれない。

ワンエリア・ワンフィッシュ。

そんなタフな状況下でありながら、正午の時合を迎えた園部川のストレッチ。

しかし、その後が続かず。再び園部川は静寂を取り戻してしまった。

この日最大のチャンスを物に出来なかった小野選手は悔しさを隠せなかった。

無情にも時間が過ぎていき、これ以降バイトは無くなった。

そして、帰着の時間も考慮し園部川を後にした。

残り時間で本湖のドック周りを撃つも、バスからの反応は得られずに、小野光一選手のWBSカスミプロクラシック28は幕を閉じた。

帰着している時に、「今回の試合はカッコイイ姿を見せられなくてゴメンね」
と小野選手に言って頂いたのだが、逆にベテラン選手としてカッコイイ姿を間近で沢山見せて頂いたと胸を張って言える。

長年の経験から導き出したエリアやルアーセレクト。

そして勝負する所ではしっかりと釣果を出してくるという競技者(トーナメント・アングラー)としての小野選手のリアルという、プレス同船していなければ絶対に見られない瞬間など、多くを見せて頂ける事が出来たのだ。

そして、一番フォーカスしたい点がある。

年々プレッシャーが増して、タフコンディションでもバスを釣るために新しいテクニックやルアー、道具が次々と現れ目まぐるしく進化し続ける昨今の日本のバスフィッシング界。

しかし、小野選手が今回バスをキャッチしたのは、いずれもスピナーベイト「シャローロール」と、往年の名作「スピードクロー」のテキサスリグである。

最新のルアーではなく定番と呼ばれるルアーであり、シンプルにストラクチャーや、アシを撃つという極めてシンプルなテクニックである。

そこに小野選手のキャスティング技術や、状況判断というピースがはめ込まれ、ビッグバスを導き出したまさにレトロゲームと呼べる試合展開だった。

そして、今回キャッチした2本の魚は、間違いなくあの日あの時のタイミングで小野選手にしかキャッチ出来ないバスであった。

それは二日間密着させて頂いて分かった事である。

バックシートから見ていた私は終始、惚れ惚れしてしまった。

WBSクラシックの1ヶ月前に、私はアメリカ「バスマスターエリートシリーズ」の試合にマーシャル(プレスアングラー)として同船する機会を得た。

そこで、本場のエリートプロの釣りを間近で拝見したのだが、やはりクランクベイトなどベーシックかつ定番の釣りで、リミットを取るという極めてシンプルな釣りで釣果を上げていた。

今回の小野選手の釣りとも共通する点がいくつもあった事から、やはり「定番の釣り強し!」と自分の中で答え合わせが出来た。

このタイミングで、ベテランの小野選手に同船させて頂いた事は本当に幸運であった。

試合前。

「今年で最後かな~」と何気なく呟いていた小野選手。

まさかの引退発表か!? と思ったが、二日間の戦いを終えて土浦新港を後にする前の挨拶で「来年も頑張りますよ!!」と言って頂けた。

その表情はすでに来シーズンへ向けて「トーナメントアングラー小野光一選手」という一人の勝負師の顔へ戻っていた。

私もこのように、プレスアングラーとしてプロの釣りを勉強しながら、Basser誌のライター雨貝健太郎氏に憧れて、本場アメリカに渡航し、バストーナメントを取材をするために活動を始めている。

来年のWBSカスミプロクラシックではお互いの報告、と再び「進化を続けるベテラン小野光一選手」に密着できる事を祈って、土浦新港を後にしたのだった。

小野選手、並びにクラシック出場選手、WBSスタッフ、プレスアングラーの皆様、このような貴重な機会を頂き本当に感謝しております。本当に有難う御座いました。

■プレスアングラー 北崎 光輔

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